10.冬瓜
・日本語というより、もはや他言語このエッセイの連載は五回分が一区切りなので、今回も一応これが一区切りである。 五個書くの大変だなーとちょっと思ったが、書いてみると書けるものである。 今回は沖縄の方言について少し書いてみようと思う。
各地方には「方言」と言われるものがあって、当然それは沖縄にもある。 「方言」という言葉を広辞苑で調べてみると、「・・・(様々な)要因が生み出す音韻・語彙・文法的な特徴。またそのような特徴によって区別された同一言語の変種。」とあった。 これはおそらく僕や皆様が抱いている方言に対するイメージだ。 つまり一応同じ言葉なんだけどそれが様々に変化した変種というわけである。 でも同じ言葉なので、慣れればなんとなく意味はわかるし、しばらく住んでいれば自然と他の地域の人でも方言ぽく話したりするようになれるという具合だ。
大阪弁などはそんな方言の典型である。 イントネーションや言葉の使い方や語尾は、標準語とは違うなーとは思っても、それで意味が通じないということはない。 しかしである。 沖縄の方言は前回書いたように全く意味がわからない。 これはもう方言というよりは、他の言語と言えるほどだ。 だって基本となる単語からして、一部ではなく全ての語彙が全く違うからだ。 いや僕ははじめ、一部の言葉だけが特殊な用語で他は基本的には日本語と一緒だと思っていた。 ところが沖縄の方言に詳しい人に聞いてみると、総ての日常に使う用語が全く日本語と異なる単語らしいのだ。 それなら実は韓国語の方がよほど、日本語に近いかもしれないなーなどと感じてしまう。 実際に、韓国語は発音や表記(ひらがなとハングル)が違うだけで、文法や単語の中身は日本語と瓜二つなのだ。 このような沖縄の言葉が分からないことによる失敗談は枚挙に暇がない。 皆さんは冬瓜(トウガン)というのをご存知だろうか? 僕も沖縄に来るまで見たことがなかったのだが、スイカのように大きな瓜(ウリ)のことである。 切ってみると中身は瓜なので、同じウリ科のメロンと似てはいる。 でもメロンのように甘くはなく、野菜として料理に使われるものなのだ。しかも夏に出回るこの野菜はとても足が長く、冬まで持つことから冬の瓜(ウリ)ということで、冬瓜(トウガン)と言うらしい。 ところで、うちのカフェでは奥さんが色々と創作料理を作る。 沖縄で初めて見た材料で、色々と新しい料理を作っていくのだ。 彼女の料理のベースは自分の国である韓国の他に横浜やNYや中国で経験した料理などが織り交じっているので、発想が自由だ。 ある日、これは僕も意外だったのだけど、奥さんがこの冬瓜でカレーを作って、ワンプレート料理の一品としてお客様に出した。味はまずまずであった。 お客さんたちはカフェの料理について、もしくは素材について、色々と聞いてくる。 これは何の野菜ですかとか、これはどうやって作るのですか、味付けは何を使っているのですか、等々である。 まあ基本的に僕も知らないことが多いので、大抵の場合は僕が奥さんに聞きに行き、その彼女の説明を僕がお客様に説明するので、二度手間になる。 今後は奥さんの方に直接聞いて頂けると、お互い時間をセーブ出来るので、ぜひお願いしたいところである。
そんなある時、お客さんが例のカレーを指差して、「これシブイですか?」と聞いてきた。 当然僕は、「?????」となった。 渋いカレーなんてつくるわけないじゃないかと思ったし、仮に百歩譲って渋かったとしても、渋いかどうかは食べたら分かるのだから、食べながら「これ渋いですか?」と言われても返事のしようがない。 それは言い換えれば、友達と一緒に宇宙旅行をしている時に、その友達に「無重力ってどんな感じ?」と聞かれているようなものだ。 「いや君がいま感じている通りだよ」と答えざるを得ない。 ・シブイ…シーブイ…シーブイン…シーグイン…シーグァン…スィーガン…トウガン…冬瓜!おんなじ、不思議!それでも黙っているわけにはいかないので、「いや・・・渋くはないとおもいますけど。。。」と相手の舌の渋さを判別する味覚細胞になったつもりで答えてみた。(おそらく渋さの味覚細胞は、舌先と舌の真ん中のちょうど中間くらいにあると僕は睨んでいる。) ところが何故か、大笑いされた。 実は沖縄では冬瓜(トウガン)のことを、方言で「シブイ」と言うらしいのだ。 お分かりだろうか?お客さんはこのカレーの中に入っているのは、冬瓜なの?と確認したかっただけなのだ。 とんだ大恥である。 大体僕は冬瓜(トウガン)自体、知らなかったし、「トウガン」という呼び方だってつい先日覚えたばかりなのだから、さらにその方言なんて知らなくて当たり前なのだ。 とは言ってもこの日以来、「トウガン=シブイ」というのは、忘れたくても忘れられなくなってしまった。言語学習には失敗を糧にする事が大切なのだ。 ところで、このあいだ八百屋に行ったら、この冬瓜売り場の所に英語で「It is not a Melon」と書かれてあった。 外国のお客さんが野菜の一種である冬瓜を大きなメロンだと勘違いし、ちっとも甘くないじゃないかと文句を言ってきたのだろうと推測される。 僕はこの外国の方に心の中で語り掛けたい気分だった。「お互い冬瓜には苦労させられるな、まあこれにめげずお互いがんばろうじゃないか、友よ」と。
まあ長い話を短くすると、、、 冬瓜は渋くもなければ甘くもない となるのだ。
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