14.今回エッセイを書いてくれた方:ハト

ハト

 「パンおじさん」

今日もパンおじさんは

時間通りにやってきて時間通りに帰っていった。

 

パンおじさんというのは

ワタシ達にパンを与えてくれる人間のおじさんのことだ。

朝の10時頃になるとパンおじさんは

いつもワタシ達が生活の拠点にしている公園にやってきては

手に持っているパンをちぎってワタシ達に与えてくれる。

そしてワタシ達がパンを食べているところをしばらく見ているかと思うと

そのうち何も無かったかのように帰っていくのだ。

 

このパンおじさんはワタシ達にとって

普段苦労しなければ手に入らない食べ物を無償で与えてくれる

神様のような存在だった。

しかも毎日必ず同じ時間に来てくれるのだ。

パンおじさんが現れてからワタシ達は

夜に食べるものだけを気にすればよくなったのである。

 

なぜ、毎日ワタシ達のために食べ物を与えに来てくれるのだろうかと

理由を色々考えたことがあった。

ワタシ達ハトが平和の象徴だからだろうかとか

昔ハトに命を助けられたことがあるのではないだろうかとか。

でもパンおじさん以外の他の人間達を観察している内に

だんだんと理由が分かってきた。

 

この広い公園には1日の内に多くの人間達がやってくる。

特に朝の時間帯というのは同じ時間に同じ人がやってきて

ランニングをしたり、集団で体操をしたりと

日々の日課として何かをしている人達がたくさんいるのだ。

そのことを踏まえると、パンおじさんのしている行動の理由も

実にシンプルなことだったである。

 

つまりパンおじさんは

ワタシ達のことを想って毎日食べ物を与えてくれているのではなく

ただ自分が日課としてそれをやりたいからしているだけなのである。

もっと言えばパンおじさんは

午後に何をしているかは知らないが、朝はヒマなのだろう、

ワタシ達はそのヒマ潰しのいい道具にさせられているだけなのである。

 

その事実に気付いた日から

ワタシ達はパンおじさんのことを神様とは思わなくなっていた。

いやむしろ「ワタシ達をヒマ潰しに使いやがって!」と

体を突いてやりたい気持ちになったのだが、

それを実行するとせっかくの朝ごはんが今後食べられなくなってしまう。

 

皆で話し合った結果ワタシ達は

今後も何も知らないフリをしてパンを貰い続けることにした。

いやむしろ今までよりも多少嬉しそうに

オーバーリアクションをしながら貰うようにしたのだ。

ワタシ達は1食分助かるし、パンおじさんもいいヒマ潰しになる、

お互いメリットがあるのだから

実際のところこれはいい関係なのではないだろうか。

 

これからもパンおじさんは

ワタシ達にパンを与え続けてくれることだろう。

 

 

鎌形のお礼コメント:

ハトさん、ありがとうございました。

なんだかギブアンドテイクについて語る時の

お手本になるようなエピソードですね。

今度はそのパンおじさんにエッセイを書いてほしいところですが

このコーナーはヒト以外に書いてもらうのがルールですので

それはやめておくことにします。

ぜひ今度は「プラシーボ効果」について書いてみてください。

 

次回は「クラーク博士像のエッセイ」です、お楽しみに。

 

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