6.痴漢の被害者

・「してる」「してない」は関係ないという事実

「あなた触りましたね!」

「この人痴漢です!」

自分が痴漢行為をしているなら自業自得の逮捕でいいが、まったく身に覚えがない。

いわゆる痴漢えん罪のケースだ。

身に覚えがないのに無関係でいられないのがこの罪の複雑なところで、通勤サラリーマンには悩ましい問題なのである。

 

テレビ番組「行列のできる法律相談所」で北村弁護士が「走って逃げてその場を立ち去るしかない」と発言していたが、実際それが一番らしい。

弁護士の知人がその辺りを詳しく教えてくれたが、駅員室や警察まで同行したら最後、自分がしていないことの立証などまず無理、解放されたければとっとと認めて略式起訴で決着させるしかないというのだ。

もし表沙汰にでもなれば、社会的制裁はほぼ死刑と同じである。

職は追われるだろうし、家族は巻き添えを食い痴漢家族だの指さされるわけだ。再就職もままならず、一家離散とかのコースはごめんだ。

聞いていてとても暗くなったハナシだが、間違われないための予防策を万全にしろ、と言われたので色々教わることにした。

 

間違われる理由の一つに、故意(論外)でなくても過失的な、紛らわしい動きやポジショニングがあるそうだ。

無神経に相手の体に密着させていたり、不審な動きなどは、たとえ無自覚であっても相手にとっては十分に不快で犯罪的脅威となる。

ここで腕を掴まれ、この人痴漢ですなどと言われるともう絶望的。

両手でつり革を掴むのは、冗談抜きで必要なことだそうだ。

また自分の体だけではなく、カバンやスマホなど持ち物によるトラブルもあるらしい。

実際、自分の尻の割れ目に他人のカバンがジャストフィットしたことあるが、何とも不快な気分になったし納得できた。

 

もう一つは被害者とされる側の欺罔行為で、これは悪質な災難である。

昔ながらの美人局のように男女がグルになって第三者を陥れたり、車内マナーを注意された女性が腹いせに男性を痴漢呼ばわりして逮捕させたケースなど、ただただ恐怖の一言である。

 

・対策マニュアルを得てすっかり安心する

ついでに、その対応マニュアルを作ってくれた。自分があまりに恐れおののいているかららしい。

こんなときはこう言う、というような傾向と対策みたいなものだ。

 

〈まず、相手に犯人が自分であると確信する理由を聞く〉
「あなたに触れている手が私の体につながっているのを確認したのですか?」

 

という返しから始まり、その後の流れを押さえている。

実際の判例から示したマニュアルなので、これは頼もしい。

さっそく丸暗記して知識武装完了、調子よすぎだがもう通勤電車は怖くない。

写真 2013-07-04 10 05 27_R
ある意味実に恐ろしい防犯ポスター

 

・なのに、なぜ…

そして冒頭に戻るが、朝の通勤電車である。

自分は車両の真ん中、つり革につかまって外の景色をボーッと見ている。

後ろも横も人が隙間無く居て、まさにすし詰め状態。

つり革にはつかまっていたが、それは右手のことで左手は下に下げていた。

 

突然、ナナメ後ろから女性のはっきりした声で「あなた触りましたね!」と。

自分じゃないのにビクッとしてそのまま動けない。しばらく沈黙の間があってそれから、「この人痴漢です!」と。

 

まったく動けない。情けないことに、体が硬直してしまったのだ。

ただ動悸だけはMAXのレベルに。

ヘビに睨まれたカエルとはこのことで、そのときは思考まで停止状態で完全に真っ白なのだ。

また初めて知ったのだが、ヒトは窮地に追い込まれると本当に「あぅあぅ」言うのだ。

その言葉にならず口をパクパクさせているヒトは、もちろん自分だ。

 

だがここで異変が起きる。

周りが「痴漢か?」「おい、謝れ!」と騒ぎだし、ついに真後ろの男性が「すいません」と消え入りそうな声で謝るのだ。

痴漢していたのは謝った男性で、その隣の女性が被害者で声を上げたのだ。

良かった…間違われてたのかと思った…。

「次の駅で降りて貰います!」と力強く引っ張られ下車していったが、周りの人の断定調な肩持ちが怖さを一層引き立てる。

イザという場面では、マニュアルなんかクソの役にも立たないことを思い知らされた。

歯切れ良く切り返すなど、普段からできていないとまるでダメということか。

気弱な自分は下げていた左手をそーっとつり革に持って行くだけだった。

 

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