9.初小説→震災! その1
・京王閣競輪場物語という設定平成23年1月中ごろ、東日本大震災の少し前のある日、退屈まぎれにITを覗いていると、「競輪短編小説全国公募」という文字が目に留まった。 東京調布市にある京王閣競輪場が、その競輪場を舞台にした短編小説を公募し、衰退気味の競輪を盛り上げたい、との趣旨であった。 原稿用紙10枚の文字通り短いものであり、締め切りまで2週間ほど残っていた。 その日は何となく気に留めただけであったが、その夜酒をちびちび飲みながらも何故か思いだし、徐々に頭の中を占め始めてきた。
小説などいまだ描いたことはない。 しかし、10枚程度なら描けるかも知れない。 以前から頭の中で意識していた、あるテーマとストーリーが使えないか? 〆切まで、少しの時間はある。最優秀賞賞金も10万円だ。 審査委員は、元NHKの顔で作家の下重暁子さん、同じく作家の白川道さん、京王閣(株)遠藤社長さん、長友調布市長、と豪華だ。 何より自分は最近本気で取り組むことは何もせず、だらだらの毎日だ・・・。 自分を追い込もう。 腹は決まった。描いてみよう、と決めた。 ・処女小説…「シュン」下書きノートには、H23.1.27(木)~2.3(木)の日付があり、起承転結のメモ、大雑把なあらすじ、プロットなどがなぐり書きされている。 登場人物及び名前が数点記され、誰を登場させ、どんな名前にするかの跡が見てとれる。 〆切は、2011年2月15日(火)必着となっており、3日でおおよそをメモにまとめ、記憶では4日間位でパソコンに向かい描き上げた記憶がある。 〆切1週間前くらいに描き終え、応募した。
処女小説のタイトルは「シュン」。 「シュン」とは、交通事故死した息子「瞬」が最後に立ち寄った京王閣競輪場を訪れた両親が、瞬と同姓同名でうり二つの競輪選手「旬」を知り、旬のひたむきな姿と活躍に心を動かされていく、家族愛をテーマにした物語である。 打ち拉がれていた両親が、不思議な偶然に導かれ、息子のよみがえりとでもいう青年に巡り会い立ち上がって行く展開であるが、このストーリーが後々3.11東日本大震災・原発事故で打ちのめされた被災者の心に多少の影響を与えるとは、勿論この時点では想像もつかない。 3.11の前々日3月9日、自宅にいた私に思いもよらぬ電話が入った。 「こちらは、京王閣競輪場です。猪狩様の短編小説『シュン』が、応募数216編の中から最優秀賞に選ばれました。3月21日に東京で授賞式を行いますが、出席できますか?」という内容であった。 呆然と聞いていた私は「勿論です」と答えていた。 手直しした最終原稿を近日中に送付して欲しいの要請の中で、受賞の喜びからか、と思うようなめまいを感じた。 ゆっくりゆっくり、目が回りだし、体がふらふらしてくる感じであった。 ところがこれは、めまいではなく、地震だったのである。 あわてて「ちょっとお待ちください、いま大きな地震でかなり揺れているのです」と話したことを記憶している。 震度4、岩手県沖地震であり、これがあの3.11東日本大震災の予兆と言われ、福島第一原発事故を引き起こす未曽有の大災害になるとは思いもよらなかった。
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