27.助けを求めないでください
・目糞鼻糞を笑う目が悪いうえに夜だったからだと思う。 電車の中でぼんやり外を見ていたら、離れて停車している別の電車が、建物のように夜の背景と同化している。 窓からは明るい屋内が見えたが、そこには気持ち悪いほど人が詰まっている。 実際、気持ち悪い。 目を凝らせて見て、ようやくそれが満員の電車とわかったが、改めて異様な空間なのだと痛感した。 あの密度はブロイラーでしょ、と。 鶏肉の一生は何とも暗い気持ちをさせるには違いないが、こちらも大した変わりはない。 絶対量としての時間で言ってもそうだ。 ブロイラーの命は約1200時間。良くも悪くも短い間だ。 サラリーマンが通勤電車に押し詰まっているすべての時間は、ざっくりの計算で約20,000時間…。 夜と同化しているあの電車の連中はブロイラーより酷いのか?と自分は一段高い所から見てしまうが、向こうは向こうでこちらを「ブロイラーより酷いのがいるぜ」と思っているだろう。 そして過密空間の鶏肉はケンカはあまりしないが、人間は当たり前のようにする。 これについては「マン・インデンシャー効果」という研究名で、その詳細を解説するページもあるが、時間をムダにしたい人だけが読むといい。 ・そして、いつものケンカ駅の階段を上るとすでに電車は来ている。 「ドアが閉まる」などと、他人事に言うが正しくは「ドアを閉める」だ。 車掌の意思であって、自然現象ではない。 そういう理屈っぽいことを考えながら、急いで乗り込む。 自分が最後だと思ったら、まだ2人乗ろうとするが、ドアは閉まりかけている。 自分を含めて3人はバタバタさせながらの乗車だが、3人向かい合って三角に乗っている。 オッサンらを眺めても仕方ないのに、2人はいきなり口論を始める。 「お前、俺のこと蹴っただろ?」 などと、こちらの顔を通過しながら言い合っている。 それほどの密着感だ。
あぁ…またかと気が滅入る。 当然周りも同じだろう。 距離を置きたいが、みっちり詰まっていて体を動かすことはできない。 蹴られた人も、そりゃあ文句の一つも言いたくなるだろう。 ようはみんなイライラしてるのだ。 それぞれが持つパーソナルスペースを、それぞれが侵しているからだろう。 ただ、このケンカは何かがおかしい。 一つには、自分を含めた3人がグループに見えること。 なんか言い合ってるが、もう1人(自分)はなんで固まっているのか、と。 2人とも自分を見ながらなので、せめて向き変えるくらいしてほしい。 もう一つ、この2人はずっと「蹴ったろ?」「蹴ってません」の繰り返しだからだ。 イラストは全然オーバーじゃない。 ホントにこんなくり返しだった。
かかわりたくないので、2人を刺激しないように、そっとイヤホンを付ける。 すると2人もトーンを落とすではないか。 周囲に配慮するんだったら、最初から言い合いなんかしなければいいのに。 でも顔の向きだけはそのまま。 電車を降りて、あぁあの2人は仲裁して欲しかったのかな、と思う。 でも仲裁は前に書いたように、しない。お断りです。
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