第2話すべてはこの瞬間のために
2012年10月12日。敵地スタッド・ド・フランスでフランス代表と対戦したサッカー日本代表。 過去、勝利を収めたことがないフランスに対して、日本は序盤からフランスの圧力に苦戦し、押し込まれる時間が続く。 しかし、日本は多くの時間を組織的な守備と粘り強いプレーで凌ぎ、88分に相手コーナーキックの流れから、そのままカウンターを仕掛ける。 今野がドリブルで持ち上がり、右サイドの長友にパス。長友の折り返しを香川が倒れ込みながら右足でゴール。 試合終了間際の劇的な決勝点で日本が1-0でフランスに競り勝ち、歴史的な初勝利を飾った。 ◆ 私はこのとき日本が仕掛けた高速カウンターが大好きだ。 似たようなケースで言うと、1996年のアトランタ五輪のサッカー日本代表がブラジル相手に見せた「マイアミの奇跡」だろうか。 いずれも下馬評では圧倒的不利の中、守備陣が集中を切らすことなく、辛抱強く耐え続け、ワンチャンスをモノにした。 過去、私自身も、レベルこそ違えど、このような試合展開で、ディフェンダー陣に支えられながら、自分やチームメイトの唯一のシュートを勝利に結びつけてきたことがある。 試合の大半を守備に費やす苦しい展開。ボールが取れず、奪ってもすぐに奪い返される。シュートどころかコーナーキックにすら持っていけない。 失点も時間の問題か。でも、負けられない。とにかく目の前の守備に必死になる。 しかし、後半も半ばを過ぎると、そんな展開に少しずつ相手が焦り始める。 自分たちも、前半に比べると、残り時間が見えてきていることから、「このままあと○分頑張れば…」と先が見えてくる。 そんなときに、思いがけないワンチャンスが巡ってくる。 すべてはこの瞬間のために。 ◆ 家事や育児をしていると、こんな試合展開に自分を重ね合わせることがよくある。 やるべきことをいくらやっても一向に減る気配はない。むしろ、小さな子どもたちが不測の事態をまるで意図的かのようにもたらしてくる。 急な発熱、探していたおもちゃが見つからずイライラ、食事中に嘔吐、出勤前にいくら叩き起こしても起きてこない……etc. それらに対応しているうちに一週間があっという間に終わってしまう。自分がやりたいことなど、週に何時間もやれない。 それでもなお、子どもたちがたまに何事もなく寝静まるようなワンチャンスが月に1~2回やってくることがある。 このときこそ、例えばかねてよりやりたかった執筆やら勉強やら未完了になっていたことやらを一気にやってしまうチャンスだ。 その貴重な時間は、それまでコツコツと積み重ねてきた地味な活動があってこそ。 そして、その集中力たるや、独身の頃の比ではない。 強敵に挑む日本代表を見習い、ワンチャンスの到来を信じ、私は今日も繰り返しの日々を前向きに送りたいと思うのだ。 (了)
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