5.旅と出会い
ある年の年末アメリカの人気観光地グランドキャニオンを訪れる計画を立てた時、私は職場の業務内容や人間関係に悩んでいました。 今年のモヤモヤを来年に持ち越さないためにも人生観を変えるほどの絶景に会いに行こうと心に決めたのです。 なぜグランドキャニオンだったかというと、ネット情報で多くの人が「自分の悩みがどうでもよくなった」とコメントしていたから。 私もここに行けば何か解決するかもしれないと淡い期待を抱いていました。 併せて、ロサンゼルスの開放的な雰囲気とサンタモニカビーチからの夕日をどうしても体験したかったので、ロサンゼルスから距離のあるグランドキャニオンへは小型飛行機での日帰りツアーに参加することにしました。 ツアー当日、ピックアップに備え早朝の誰もいないホテルのロビーで待機していると、そこへ一人の日本人スタッフが現れました。 40代後半くらいと思われるその男性は早朝とは思えないほど元気でよく喋り、車内でもジョーダン混じりの面白い話とパイロットとしての豊富な経験談を話してくれました。 ロサンゼルスからグランドキャニオンへ向かう小型飛行機の発着場所まで一時間ほどのドライブでしたが、彼のおかげであっという間でした。 もっと彼の話しを聞いていたいと思うほど、人を引き付ける人間力のある方です。
私は最後に「なぜアメリカでパイロットを目指したのですか」とずっと気になっていたことを尋ねました。 その理由は単純で日本にも同じ職業があるからです。すると、彼は少し長くなるよと言って話し始めました。
青春時代は甲子園を目指し野球に打ち込んだそうです。 その結果甲子園出場の夢を見事実現しました。 部活引退後に初めて将来の進路を考えた時、彼はパイロットになりたいと思ったそうです。 しかし、自分を含め野球一筋の周りの友人達は大学へ進学するための勉強をしたことがありません。 周りにその夢を打ち明けた時、英語も話せないくせになれるわけないと笑われたそうです。 そこで、悔しさが爆発した彼はできっこないと馬鹿にされながらも自分だけを信じて猛勉強したと言います。 同時に、日本に残る右に習への精神や型にハマった考え方に窮屈さを感じていました。 そして何よりも夢を語って否定された経験が他の国へと目を向けるきっかけとなったそうです。
そこで、自由と自己責任の国アメリカでパイロットになることを決意。 その後、難しい試験も言葉の壁も乗り越え、念願のパイロットとして今は毎日やりがいを感じながら充実した日々を過ごしていると話してくれました。
あの時周りの意見に流されることなく、やりたい夢を追いかけて本当に良かったと幸せそうに話してくれました。 彼には2人の子供がいるそうで、将来自分と同じようにやりたい事にチャレンジできる人になってほしいと言っていました。 日本、アメリカ、他の国でもどこでも構わない、自分が輝ける土俵を探して輝けばいいと。 彼が放つ言葉一つ一つに痺れっぱなしでした。 彼と別れグランドキャニオンの絶景をこの目にしっかり焼付けました。 その壮大なスケールにもちろんとても感動しましました。
しかし、グランドキャニオンの絶景よりも一人の格好良すぎるパイロットとの出会いの方が私の心を大きく動かしました。 彼は日本という中にいながら、もっと広い世界があることを信じ、人になんと言われようと自分自身を信じ貫いた。 彼の言葉には多くの困難を乗り越えてきた人だけが持つ説得力と破壊力がありました。
ロサンゼルスからの帰り道、私の中で何かが変わろうとしているのを感じたのでした。
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