14.電車で立ったまま寝る技術
それは1999年の梅雨時期のことで、それほど混んでいない東海道線にいた。 くたびれ加減が味を出すほど渋い一人の中高年サラリーマン風体だが、電車で立ったままその男は寝ていた。
・ 寝ていたいのにカクカクしてつらい…いわゆる「膝カックン」、電車などで立ったまま寝始めると膝の周りの筋肉が緩みカクンと落ちてしまうことだが、これは誰でも経験している厄介事だろう。 でありながら誰も克服できていない不治の病みたいなものである。 寝てはいけない寝てはならないと呪文のように自分自身に訴えるが、そんな目論見を嘲笑うかのように次の瞬間膝を曲げてしまっている。 床に尻餅つくわけにはいかないので必死に持ち直そうとするが、悪魔の微笑みはさらに残酷で周辺の人たちに伝播させて例えようのない不思議な敗北感を持たせている。 そんなメンタル解析はともかく、有史以来の人類の進歩を阻む膝カックンが、いままさに克服せんと一例を示しているわけだ。
・ 揺れに関する基礎知識膝カックン防止のカギはいくつかあるが、まず基本的な要素から説明していこう。 次の図は、電車の進行方向に対する立ち位置を大別したものだ。 進行方向に平行するか垂直するかである。 進行方向に平行する立ち位置だと、前後の揺れには強いが左右の揺れには弱い。 逆も同じで、進行方向に垂直でいると前後の揺れには弱いが左右には強い。 ここを押さえた上で次の図を見てみよう。 これらは進行方向に対して、斜めの立ち位置としている例だ。 人から教わるまでもなく、おそらく経験的に皆していることだと思う。 進行方向から2時、5時、8時、11時の向きだが、基本的にはこれらの中で優劣はなく他人のポジションに当たらないよう位置を整えているはずだ。
・重心移動は足先で問題は立ったまま寝ることである。 これを現実のものにするには体のパーツごとの力加減が大きく影響する。 その一番が先述した立ち位置である。 そしてよりベターな立ち位置は、2時の向きと11時の向きである。 これは試行錯誤から得られた経験だが、進行方向に対しては“足先”が微妙な力加減できるので、この向きがいいわけだ。 足の向きがわかったところで次の図を見ていこう。 体全体の要所である。 足先から上に見ていくと、次は膝だがこれはいうまでもなく伸びきっていなければならない。 膝をまっすぐにすることで安定した下半身をつくるわけだ。 そして上半身は前に曲げ重心を前にしている。 ここで重心が後ろに移動してしまうと膝はカンタンに曲がってしまうし、足先の微調整が利かなくなるのだ。
そして手だがここが一番難しい。 普通はつり革などを掴むものだが、実はここに多くの重量をになってはならないのだ。 手が支えれば支えるほど膝周りの筋肉は緩みカックンしてしまうからだ。 感覚的な表現だが、手が支えるものは全体の2割ていどでいいと思う。 両手でがっしり掴んでも余計カックンさせてしまうだけだ。
あと電車に揺さぶられる場所を知っておくと、無意識でも体は反応するようだ。 これで大きく降られることはなくなるから不思議だ。
ちなみに、自分はできる…たぶんできる…できるんじゃないかな…。 お手本を示してくれたくたびれサラリーマンは手はどこも掴んでいない。つまり足2本だけで寝ていたわけで、さすがにこれは真似できない。
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