16.今回エッセイを書いてくれた方:扇風機

扇風機

「僕らにもっと出番を」

今年もやっと夏がやってくる。

夏がやってくるということは

ようやく僕らの出番が回ってくるということでもある。

 

世の中で扇風機が使われ始める6月頃になると

僕は今か今かと出番が待ち遠しくなり

胸を躍らせるようになる。

何せ秋から春までずっと押入れの中で過ごし続けてきたのだ。

その8カ月以上もの長い間、誰にも必要とされていなかった僕は

いつも「他人から必要とされることの素晴らしさ」を

押入れの中で考えさせられるのである。

 

食べ物や洋服などにも

特定の季節にしか活躍できない人はいるが

電化製品に関しては僕ら扇風機ぐらいではないだろうか。

エアコンさんは冬になれば

暖房器具としての仕事が回ってくるし、

コタツさんだって電源は入れられなくても

テーブルとしては1年中使われている。

家電業界の中で僕らほど

収入が安定していない電化製品はいないのである。

 

1年の内のほとんどを押入れの中で過ごしているから

外に出してもらえた時は本当に嬉しい。

僕らはよく首を横に振っているが

それは色んな所を見たいからなのだ。

久しぶりに出た外の世界は見るもの全てが新鮮だから

それが見たくて僕らは左右に首を振っているのである。

 

僕がこの場を借りて言いたかったのは

退屈な状態は幸せではないということだ。

働かなくていい時期があったって

他にやることが無ければ辛いだけなのである。

かといっていざ夏になると

徹夜で働かされることはざらにある。

暇な時期と忙しい時期があまりに偏っているため

どちらも辛いことに変わりはないのだが…

 

そういえば僕の好きなバンドであるTUBEも

そんな働き方をしているって聞いたなぁ。

「あー夏休み」なんて歌を歌っているのに

彼らに夏休みは無いのだ。

夏にしか出番が回ってこないなんて

僕らとTUBEは本当に可哀想なものである。

 

そういうわけで僕は押入れの中にいる間は

もっぱらオンラインゲームをプレイしている。

それしかやることの無かった僕は

どんどんプレイヤーとしての腕が上達していったため

今やゲーマー達からは「伝説のプレイヤー」と呼ばれている。

それについては少し嬉しかったりするのだが

やはりもっと1年を通して働きたい。

何か押入れの中でもできるいい仕事は無いものだろうか…

 

鎌形のお礼コメント:

扇風機さん、ありがとうございました。

私がアナタに執筆を依頼した時、季節はまだ春でしたが

依頼を受けたその日の内にはもう原稿を送ってくれていましたね。

あれでいかに暇を持て余しているのかということが分かりました。

押入れの中でもできる仕事は色々あると思います。

今でしたら「YouTuber」なんかはどうでしょうか?

オンラインゲームにも詳しいようですし、

「ゲーム実況者」なんかちょうどいいと思いますよ。

 

次回は「カブトムシのエッセイ」です、お楽しみに。