23.正解の無い二択問題
今回の話は異なる2つのシーンを、a1→b1→a2→b2と分けている。 読みにくさを感じたなら、a1→a2→b1→b2と順序通りに読んでください。
・アミ棚は、アミでなくなると「荷棚」と呼ぶらしい(a1)自分は朝の通勤電車にいる。 以前説明したことがある第一つり革の場所だ。 通勤電車なので当然混雑している。右も左も、前も後ろも人で一杯。 しかも途中駅では、並んで待つ人たちが全力で乗り込んでくる。 そういうのが通勤電車というもので、毎日が同じで繰り返しである。 慣れてしまえば、1日の中のありふれた時間帯であり、記憶に残ることなく過ぎていく。 だが、ありふれた時間であるほど、些細な変化も敏感に反応し、こうして記憶されてしまうものだ。
電車内の第一つり革から、途中駅ホームで並ぶ人たちを見る。 すると、4,5列目にお婆さんがいることを確認する。 なんとも嫌な気分とともに、わざわざ思い出さなくてもいい記憶がグルグル回っている。 不安の通り、お婆さんは列を突ききって乗ろうとする。 そして不安の通りに、自分の側に来て背後に付く。というより憑く。 さらに、自分の脇から異物がゴソゴソしだす。 すべての不安が的中したことで、自分は最後の選択を迫られている。 その選択とは……。(a2に続く)
・団塊と団塊ジュニアがダブっていた時代(b1)自分は朝の通勤電車にいた。 つり革につかまり本が読める座席の前だ。 通勤電車なので当然混雑している。 右も左も、前も後ろも人で一杯。 団塊世代と団塊ジュニアが、ともにサラリーマンとして満員電車にいた頃である。 混雑具合の酷さは、たとえば胸のポケットに入れたボールペンが折れてしまうこともあったほどだ。 途中駅に着くたびに、ホームに並んだ人たちが全力で乗り込んでくる。 かなりパンパンになっているが、それでも迷いはないらしい。 気がつくと自分の後ろにオババがいる。 そして、カバンでこちらの脇腹をグリグリしている。 あぁ荷物を荷棚に載せたいんですね。はい、どうぞ。 乗せやすいように自分は体を横に曲げ、反対側の連中を少し押しながら、オババが一歩前に来れるようにしてあげた。すると、 「あれ?」 「あれれ?」 気づく頃には、自分は座席の前から外され、中間のスキマに。 やられた……。 オババは最初から荷物だけではなく、座席前のポジションも狙っていたのだ。 かすかに笑う表情が見える。鬼だ。(b2に続く)
・ブロックが裏目に…(a2)ゴソゴソされたことでついに最後の選択となったが、その選択肢とは、どいてあげてスペースをつくることと、体を動かさず自分の立ち位置をキープすること。 こうやって文字にすると、あらためて自分の小ささが浮き彫りになるが、ここではカッコつけたことなどいってる場合じゃない。 人間の器など知ったことか。 ということで、今回は「動かざること山の如し」。元気のいいお婆さんにスキを与えない作戦で行く。
自分の脇腹をゴソゴソさせてアピールをするがここは我慢。微動だにしないでいると、隣のつり革男もまったく反応しない。 意識しているのか、それともゲームに夢中なだけか、とにかく両サイドが開けてくれないのなら、座席前狙いは失敗だ。 そう喜んでお婆さんを見るとは無しに見ると、こっちを向いていない。 反対側を向いているのだ。 結果は、ただのお婆さんでした。 脇腹ゴソゴソは、お婆さんが小脇に抱える日傘の先のようだ……。 つくづく情けない気持ちになる。消えて無くなりたい。
・ 鬼が二度笑う(b2)グリグリして自分を弾き、つり革スペースを難なく手に入れたオババ。 後ろで見るというか視界に入るとますます悔しくなってくるので、反対側を向くことにする。 こういうイライラはすぐ忘れる方がいいに決まっている。 ギュウギュウのポジションなので本は読めなくなってしまったが、なんとか終点の東京駅に着いた。 オババのことはすぐ忘れていたのに、振り返れば座席に座っているではないか。しかも眠い目をこすって寝ていたではないか。 満足げな鬼をはじめて見た。 |
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