26.年末…やつらが攻めてくる!
・座る人寝ちゃいけないという祈りが成就しないように、しこたま飲んでおいて座っても降りる駅をはずさないなどということは無い。 絶対に。 なのに、座ってしまった目の前のおっさんは、この先どうするのだろうか。 間違いなく、熱海駅はおっさんを誘う。 おっさんは無抵抗。 自分が座らずにいたのは、この誘惑に翻弄され続けてきたからだ。 神奈川県民は、熱海を同県だと思っている。 そこで、県内なら近いだろうという算段が働いてしまう、と勝手に推測する。 だが肝心なことは、たとえ熱海であっても冬の深夜は寒い。 昔は電話ボックスに新聞紙を敷きつめれば、朝までの何時間かは寝れた。 でもいまどき公衆電話すら探すのは大変な……あれえ起きた、全然普通かよ。
・踊る人1つのつり革に両手でつかみ、ほとんど寝ているおっさん。 なんとか膝カックンをせずに、立ったまま寝ているような、少なくともそのつもりなのはわかる。 だが現実は、つり革を軸にくるんくるん回っているおっさんだ。 ダンシング系酔っ払いとでも言えばいいのか、かなり迷惑だ。 しかもこの人肩掛けバッグなもんだから、ダンシングが繰り出す遠心力が、バッグを凶器に変えて自分の腰に命中する。 いかにも仕事しなさそうなんだから、バッグなんかしないで手ぶらでいればいいのに。ばーかばーかと2回心の中で悪態をつく。 なぜなら2回やられたから。 目には目だ。 ・倒れる人この人は電車に乗り込んだときから駄目駄目。 ふらふら揺れに任せ、でもある種優雅な流れとも言えなくもなく、他の乗客の邪魔になっている。 つり革からつり革へ、その次は手すりへと。まるでターザンだ。 自分はそういう人たちをネタに、こう記事を書いている。 なので電車内での異変に敏感だし、彼らの一挙手一投足に注視している。 若者風に言えば、ガン見というやつか。 でも、いくら酔っ払っていようとも、知らんおっさんがジロジロ自分を見てたら、やはり気づくだろう。 そのせいなのかわからないが、酔っ払いはこっちに来る。 絡まれるのかなあ、とか色々心配になっていると、ドア口の真ん中で止まる。 自分はいつものドア横。 ホントここが好きなんだなあと書くたびに思う。 この流れるターザンは、横揺れに対しつり革をつかみ損ねてしまう。 ドア口の真ん中のせいで、どこにも手が届かない。 「がんっ」 その勢いのまま頭をドアに強打してしまう。 あまりにも勢いがあったため、ズルズル体は沈んでいき仰向けに倒れてしまった。 ただ、大の字にというのではなく手足が縮んだ、まるで赤ん坊のような態勢なのである。 おっさんが赤ん坊みたいなのは笑える図なのだが、体がこうなってしまうときは危険なんじゃないのかという雰囲気になる。 すると、 「ちょっとそこスペース作って」「下手に動かすな」「緊急停止ボタン押して」「いや、あれは停まるだけだから駅まで行かせろ」「声聞こえる?」「傷口ないか?」「次の駅に電話してタンカを待機して貰おう」 などなど医療ドラマを見るような世界で、たぶん介抱していた人は医者か看護師などの関係者なのだろう。 することにムダのないテキパキさだった。 だから最初はこの人のことを書こうと思ったのだが、自分の記憶は俗っぽくまた正直である。 いまある記憶は、ブラックジャック先生ではなく赤ん坊の姿ばっかりだ。
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