2.でもって、能「道成寺」の筋はこうなってます
前回の『道成寺縁起絵巻』(重文)は、詞書きが後小松院、絵は土佐光興の筆になるとの伝。 これは眉唾だそうですが、絵も詞書きも面白く、ユーモラスでありながらその迫力はかなりのもの。 ただし説話の主眼は仏法のありがたさ、熊野権現の御利益に置かれています。
一方、能「道成寺」はこの話を本説としながら、「女の執心」に焦点をしぼる。 舞台は僧が焼き殺された事件そのものではなく、後日談となっています。 この後日談は説話にもありますが、むしろ能による創作が先で、後に説話に加えられたと考えられます。 では、能「道成寺」のあらすじを見ていきましょう。
配役 前シテ(前場の主役)白拍子 後シテ(後場の主役)蛇体 ワキ 道成寺住職 ワキツレ 従僧2人 アイ(間狂言) 能力(寺男)2人 ・起―鐘の供養は女人禁制事件から久しく時を経て、頃は花の盛り。 道成寺では久しく鐘が失われていたが、再び鋳造したので、その鐘の供養が行われようとしている。 ただし事件の因縁があるので、住職(ワキ)はかたく女人禁制と命じる。 能力(アイ)はこれを皆々に告げる。
・承―白拍子が鐘の供養に舞い(乱拍子、急之舞)、鐘入りそこへ白拍子(前シテ)が「鐘の供養に参ろう」と謡いながら登場する。 道成寺に着き、境内に入ろうとすると、女人は禁制だと能力に阻まれる。 白拍子が「鐘の供養に舞を舞うから、拝ませてほしい」と懇願すると、能力は舞を見たさについ許してしまう。 白拍子は喜んで乱拍子を舞う。 やがて能力が居眠りを始めたので、その隙にとばかり、女は鐘を落として飛び入り、鐘のうちに籠もってしまう。 ———————–中入り(ここまでで前場が終わり、後場に入っていく)———————-
・転―過去の事件が語られる(間狂言、ワキ独吟)大鐘が落ちた凄まじい地響きで、居眠りをしていた能力たちは跳び起きる。 鐘が地に落ち、しかも煮え湯のように熱くなっているのに驚き、恐縮しながら事の次第を住職(ワキ)に報告する。 住職は、言いつけを守らなかった能力を叱責するが、そもそも「なぜ女人禁制としたのか」その理由を従僧(ワキヅレ)に語る。 昔、この地に真砂の荘司という者があり、娘が1人いた。 その頃、奥州より毎年熊野詣をする山伏があり、荘司の家を宿としていたが、荘司は娘かわいさに「あの客層こそ、お前が夫よ」などと戯れを言い、娘は真に受けて成長した。 ある時、娘は宿泊した僧の寝床へ行き、「いつまで待たせるのか、早く妻にしてください」と迫った。 僧は仰天したが、何とか娘をなだめて、夜に紛れて逃げ出し、道成寺に至った。 かくまってくれるよう頼むと、鐘を下ろしてその内に隠し置く。 娘は気づいて追いかけたが、折から日高川の水かさが増して渡れない。 一念で毒蛇となって川を泳ぎ越し、寺に至る。鐘の下りているのを怪しむと、鐘にまといついて炎を吐き、尾で叩けば鐘は湯となって、ついに山伏を焼き殺した。 何とまあ恐ろしい話ではないか。 その時の女の執心が残って、またこの鐘に障害をなすのだろう。 さあ、我等の法力で鐘を取り戻そう。
・結―鐘が上がり、大蛇は祈り伏せられ日高川へ(祈)僧たちの祈り始めると、鐘がグラグラと動き出し、やがて引き上げられて、中から蛇体と化した女(後シテ)が現れる。 必死で祈る僧たちと蛇体との闘い。 とうとう蛇体は祈り伏せられて逃げ出し、日高川に飛び込んだので、僧たちは「これでよし」と本坊に戻って行った。
*参考文献
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