19.ちょっと道草①「蛇」は女で決まりなのか―「白蛇伝」と「三輪」

・蛇が女に化けた「白蛇伝」

女が蛇と化した「道成寺」とは逆に、蛇が女に化けたって話もある。

中でもポピュラーなのが「白蛇伝」。

中国の代表的な説話の一つで京劇にもなっているし、日本でも1958年に東映がアニメ映画として制作している。

また『雨月物語』の中の「蛇性の陰」が、「白蛇伝」を下敷きにしていることもよく知られる。

 

・「白蛇伝」のあらすじは?

「白蛇伝」には、さまざまなバージョンがあるが、中でも京劇等でもっとも広く親しまれているのが、方成培の『雷峰塔奇伝』。そのあらすじを簡単に紹介しよう。

白蛇の白雲仙姑(白氏)は峨眉山から俗世に下り、青蛇の青青(青児)を侍女として、西湖のほとりへ赴く。

白氏はそこで許宣という若者に一目惚れして近づき、翌日許宣が白氏の館を訪ねると、さっそく結婚を申し込んで許宣に支度金を渡す。

ところがその支度金が盗品とわかり、二人が妖怪であることも知れる。

許宣は宿屋をしている知人のもとに身を隠すが、そこへ白氏と青児が訪ねて来て、言葉巧みに弁解をしたため、許宣は信じて白氏と結婚する。

 

端午の節句の日、白氏は許宣から無理に酒を勧められ、断り切れずに飲むと、気分が悪くなって休む。

心配した許宣が様子を見に行くと、白蛇の正体を現した白氏がとぐろを巻いていたので、許宣は驚きの余り絶命してしまう。

そこへ青児がやって来て、びっくり。正気に戻った白氏は夫の命を救うために嵩山の南極仙翁のもとに仙草を取りに行き、戦いの末、仙草を得て帰り、許宣を生き返らせる。

 

そんなこんなで二人の生活は続き、白氏は許宣の子を身ごもる。

一方、法海という高僧が仏の命を受け、蛇を捕らえて許宣を救うべく下界へ下り来て、金山寺に住んでいる。

それから紆余曲折あって白氏は男の子を生むが、その後、法海は許宣の協力を得て白氏と青児を雷峰塔の下に封じ込めてしまう。

許宣は浮き世の虚しさを感じ、法海の下で出家する。

 

そして十数年後、白氏の息子が雷峰塔の前で母を慕うと、仏は彼の孝行心に免じて母との対面を赦す。

数年して、仏は白氏と青児の改心を認めて2人を許したので、法海は彼女たちを解放し、許宣もやって来て再会。

そして白氏と青児は忉利天宮へ行き、許宣は法海とともに仏の下へ戻る。

……というわけで、果たしてめでたし、めでたしなのか、ちょっと首をひねってしまう結末ではあるけど、まあ結局、皆さん成仏するってところが、仏教的ハッピーエンドなのかもしれない。

ちなみに、第5回で紹介した『大日本国法華経験記』「紀伊国牟呂郡悪女」の結末も、僧に供養してもらったお陰で2人とも成仏し、女は忉利天へ、若僧は兜卒天へと、別々の天宮へ昇るというもので、「白蛇伝」の「白氏と青児が忉利天に昇り、許宣は仏の下へ戻る」という結末に重なる。〈女⇔蛇〉の話は、やはりどこかでつながっているのかも。

第19回 花

・男が蛇ってパターンはないのか?

ちなみに「道成寺」はじめ、女が蛇になったり、蛇が女になったりという話はけっこうあるけど、〈男が蛇〉のパターンはないのだろうか。……と思って探してみると、まあ、ないこともないようで、例えば能の演目のなかにも一つ見つけた。

 

それは「三輪」という曲で、大和の三輪山に庵を結ぶ僧の前に三輪の女神が現れて、三輪の神話を語って舞を舞うという内容。

ここで語られる三輪の明神の正体が蛇なのだ。

男の姿をして女のもとに通うが、女は夜にしか現れない男を不思議に思い、苧環(おだまき)(紡いだ麻糸を輪に巻いたもの)に針をつけて帰る男の衣の裾に綴じ付け、跡をたどっていくと杉の下枝に止まっていた。

そこまで三巻き(三輪)かかったので、三輪の明神と呼ばれるようになったとか。

 

蛇とは言ってもこちらは神様。

執心や恨みなどとは無縁でもあり、〈女が蛇〉のパターンとはまったく別で、とても同列には語れませんね。

 

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