18.高野病院

・老医師の奮闘~不慮の死・・・

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2017年2月26日(日)、いわき市の斎場で双葉郡広野町にある「高野病院」前院長高野英男医師のお別れ会が行われた。先生は昨年12月30日不慮の事故により突然亡くなられた。81才であった。

会場には入りきれない700名以上の人々が詰めかけ、献花をした。メディアもかなりの数に達していた。

なぜこれほどの方々が訪れ、注目されたのだろうか。

 

高野病院は、原発被災地で唯一診療していた病院である。他の医療機関がそれぞれ閉鎖する中で、患者さんを見殺しにはできない、という思いで避難せず医療を続けていた。勿論他の病院もより原発に近い場所では避難せずに診療を続けることなど不可能に近いものがあっただろう。

しかしこの病院は避難指示従わず、311の日からずーっと診療を続けた。避難すればその途中で患者さんを死なせてしまうと判断し、避難しない道を選択した。そのことにより一体どれほどの患者さんの命を救っただろうか。

どれほどの命を守っただろうか。

 

しかも先生は高齢だ。その高齢を押して、365日一日たりとも休まず、他に医師がいない中たった一人で診療を続けた。検査から、注射などあらゆる医療行為を全部一人でやらざるを得なかった。

複数の医師がいれば分担等も出来るだろうが、カルテの作成からありとあらゆることまで医師としてやらざるを得なかったという。さらに入院患者さんも130名を超える数であり。回診も当然行い、外来診療し、病院運営の事務処理までこなしていたという。まさしく365日24時間、寝る間もなく心血を患者とスタッフ、病院管理に注いでいたのだ。

 

その神様のような医師が焼死してしまった。

人々のために、身を粉にして生きてきた人間を、天はなぜこのような最期を迎えさせたのだろうか。

天は時折かくも非道な仕打ちを与えてしまう。その報に触れた時、その衝撃、悲しみ、同情、無念さ、やるせなさ、絶望を覚えたのは自分一人ではないだろう。

冒頭のお別れ会は、その人々が最後のお別れに涙し、感謝し、合掌し、献花に訪れたのだ。

 

・原発被災地唯一の病院

その院長が亡くなった高野病院が存続の危機に陥っている。

医師不在の病院はその機能を認められない、という至極もっともな理由だ。しかし被災地は勿論、地方のあらゆる町村などで一人医師の存在は数多く存在する。どこの地域医療も明日は我が身だ。病院が、地域医療が突然立ちいかなることがどこのでもありうる出来事なのだ。

そのような現状を自治体や国は果たしてどれほど深刻に受け止め、対策を講じてきたのだろうか。とりわけ原発被災地である福島県浜通り地方は深刻だ。医師の絶対数が不足している。いわき市の病院、医院など、待合室に患者があふれている。

 

高野病院では全国に働きかけ、やっと2~3月の短期の院長が名乗りを上げてくれ、存続が決まった。4月以降もどうにか次の院長が見つかり存続の見通しがたった。

しかしもし見つからなかったら、あるいは診療体制、経営などに深刻な状況が続いたら、存続の危機はありうるのであろう。福島第一原発から南側の大熊町、富岡町、川内村、楢葉町、広野町などはこの高野病院が唯一の入院施設を有する病院なのだ。加えて福島第一原発、第二原発の作業員なども検査や不慮のけが、病気などで訪れる。

まさしく地域になくてはならない病院であり、誰が考えてもその存続に万全の対応、対策を講じなければならないのは明白だ。一民間病院、などというレベルではない。

 

病院では何があっても患者、スタッフ、地域を守るという決意で、一時は病院の無償譲渡まで提案したという。さらに「公設民営」をも視野に入れ検討していくとまで踏み込み、地域医療を守っていく覚悟を示しているが、どうも福島県の対応には手を携えて真剣に地域医療を守っていくという風には感じられない。ひたむきな真剣さが、我々県民には伝わってこない。

その裏側に、どのような思惑、背景、見通し、将来像があるのだろうか。市民県民レベルでは知りえない何かがあるとすれば、原発事故という世界でも類を見ない惨状を前にした国、県、自治体のありようではないのだ。ここにも、被災者が追いやられている実態が垣間見えてくる。

 

4月からの避難指示解除に各町村は躍起になっている。安心だ安全だ、除染がすすんだ、避難指示も解除した、だから戻ってこい、のオンパレードだ。しかし、いざ病気、けが、不慮の事態に命の支えになる地域の病院、医療機関の安定がなく、何が帰還なのだろうか。

 

医療機関をまずきちんと整備し、文字通り安心して暮らせる環境を整えることが国、県、自治体の最大の課題、テーマであるといえるし、それが常識というものだ。

それらを成し遂げることが、命を懸けて地域医療を守り通した故高野英男医師に対する礼節と感謝、義務、責任なのではないだろうか。

(170226筆)

 

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