7.道成寺縁起の異本―「日高川草子」の場合

・こっちは「賢学・花姫」です

「日高川草子」について、もう少しひもといてみましょう。

まあ、道成寺縁起の異本とされるだけあって確かに、①僧、②迫る女、③約束、④川、⑤蛇、⑥鐘という、6つのキーワードをすべて備えてはいるのですが、「川」と「鐘」の比重に見るように焦点のズレがあり、話の筋にも違いがあります。

まず僧と女の名前からして全然違う。

僧は賢学、女は花姫。それで別名「賢学草子」とも呼ばれます。

例によって、絵巻(江戸期)を覗きながら筋を追ってみましょう。

 

・起―ええっ、「女犯」て「殺生戒」より重いの?

賢学は三井寺の僧。

ある夜、夢の告げに「遠江国橋本宿の長者の娘と契る運命にある」と知らされ、そこへ行ってみると5歳になる花姫という娘がいた。

この子が成長すれば修行の妨げになるので殺してしまおうと思い、花姫の胸を突き刺して逃げる。

第7回-1
橋本宿の長者の娘、花姫は5歳。

 

・承―で、結局は因縁通りに……

幸い花姫は命をとりとめ、美しく成長する。

16歳で京都に上り、清水寺で賢学と巡り会う。

それとは知らぬ賢学は、花姫に一目惚れして契を交わす。

賢学は花姫の胸の傷を見て、夢の告げ通りになったことを知り、因縁の恐ろしさに花姫を捨てて熊野へと向かう。

第7回-2
清水寺で運命の出会い、賢学の一目惚れで2人は契るが…。

 

第7回-3
因縁の恐ろしさに、賢学は別れを告げる。

 

・転―日高川で女は蛇になる

賢学に捨てられた花姫は、後を追って熊野へ向かう。

賢学は那智の滝で修行するが、花姫が迫るのを感じて逃げる。

舟で日高川を渡って逃げるが、乗せてもらえぬ花姫はザンブと飛び込み、蛇となって泳ぎ渡る。

 第7回-4 第7回-5
那智の滝に打たれる賢学。
諦め切れない花姫。

 

 第7回-6
待って~。

 

・結―「鐘」を経由して「川」へ

賢学はある古寺に逃げ込んで、鐘の中にかくまってもらうが、蛇と化した花姫は鐘に巻きついて壊し、中にいた賢学を捕まえる。

賢学を川に引きずり込み、嬉々として川底へ沈んでいく花姫。

その後、僧たちが2人のために念仏供養をした。

第7回-7
捕まえた!(なんか嬉しそうですね)

 

第7回-8
ともに日高川の底へ。

 

*参考文献
『道成寺絵巻』国会図書館デジタルコレクション(絵巻の内容は日高川草子)。

 

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